茶、美、くらし

お茶と食事 余珀 店主。お茶、日本の美、理想のくらしを探求中

2019-01-01から1年間の記事一覧

ねじめ正一「荒地の恋」

ねじめ正一と聞くと反射的に「六月の蠅取り紙」が思い出される。吉増さんに盛り上がっている私をみて先週、常連さんが貸してくださった。詩人 北村太郎の大人の恋。しかも相手は田村隆一の妻だ。「日本でプロフェッショナルだと言える詩人が三人いる。それは…

幸田文「おとうと」

母のお勧め、その2。泣けて泣けて、読み終えたという。一気読み。母の選ぶ本は優しい。「よくはわからない。けれど、陽にあたっているあちらに平常の世界があって、自分は丘の上にひとりすかすかと風に吹かれているという景色はよくわかる。」「すかすか」と…

石井桃子「家と庭と犬とねこ」

母に勧めてもらい、読了。1907年に浦和で生まれ、終戦直前に宮城で百姓を始めた石井さん。子どもの頃の記憶や東京と山を行ったり来たりの生活を飾らない正直な文で綴っている。心の柔らかいところをそっと起こしてくれるような、そんな本だった。「『空気の…

黒板に白いチョークが走る。大きく描かれた円。その下に文字が書かれる。「これは円ではありません」先生はそれだけ書くと教卓についた。教室に入ってからここまで、終始無言。今もただ黙って座り続けている。描かれているのはどう見ても円だ。一円相。緩や…

「幻を見るひと -京都の吉増剛造-」③

2回目の「幻を見るひと」。またもや最終日に滑り込み。この映画を観るということは私にとって言葉と、世界と、出会い直すということでした。 心からありがとうございました🙏① http://ashogaki.hatenablog.com/entry/2018/12/03/232057② http://ashogaki.haten…

「幻を見るひと -京都の吉増剛造-」②

吉増さんの映画、「幻を見るひと」がポレポレで上映されている!映画を愛する常連さんが教えてくれた。3/11に舞台挨拶付きで観てきたのだという。「昨年末に私も写真美術館で観た」と伝え、興奮と感動を共有した。明日、明後日も吉増さんご本人が舞台挨拶に…

文庫

青山に2年ほど住んだことがある。小学1、2年生のころ。父の転勤のためだった。幼少期を賢治のふるさと、花巻で過ごし、その後引っ越し。阿佐ヶ谷に1年住み、小学校入学のタイミングで青山に移った。計3年間を東京で過ごした。家から小学校まで歩いて5分もか…

3月5日

弟の誕生日。かつ、両親の結婚記念日。親にお祝いのメールをしたら、40周年だと返事がきた。40年。そういえば、我々も今年10周年だ。ちょうど30年違うことに、今日、気づいた。開店前のBGMに弟のくれた曲を流す。もちろん「家族の風景」だ。そろそろ本気で禁…

マット

「こんにちはー。マットの交換に来ました」。明るい声が響く。「お願いします」と声だけかけて、急いで仕込みに戻る。開店前の一番忙しい時間に、いつも作業員はやって来る。いつも、だ。「今か」と舌打ちしたくなるが、仕方ない。店が始まると、作業はでき…

じょなさん

彼女はじょなさんと名乗った。「ひらがなでも、カタカナでも、英語でも、好きなように呼んでください」。ひらがながしっくりきた。問われる前は知っていたつもりのことが、問われた途端にわからなくなる、ということがある。「幸せとは何か」。その時の問い…

骨の音

ぱりん。白茶けた骨がたてる、せいけつな音。キィンとかすかな響きが混じる、軽くてかたい透明な音。ぱりん。「風の谷のナウシカ」の腐海の枯木が割れるときちょうどこんな音がした。「ホラホラ、これが僕の骨だ」見せてきたのは誰だっけ。警官みたいな帽子…

寒稽古

空には星が輝いている。朝刊もまだ届かない。一月の冷たい風が吹くなか、武道体育館へ自転車をこいだ。先日、体育専門学群の剣道の寒稽古に参加できることを知った。「良い経験になるから出るように」。先輩の言葉に、サークルの仲間は「はい」と答えた。メ…

「小手あり」。三本の赤い旗が同時に上がった。夏合宿の部内戦。初めて先輩に勝った瞬間だった。相手は女子で最強の先輩だった。「私のほうが稽古している」。そう言い聞かせて勝てないはずの試合にのぞんだ。相手が面にくるところを出小手で押さえ、その一…

まんぺいさん

「まんぺいさんに似ている」。また夫がそう言われた。数日前に別の方にも同じことを言われたのだ。「まんぷく」を見たことがないので、「まんぺいさん」が誰か分からない。昨日、早起きできたので確かめてみた。丸眼鏡。ぼさっとした頭。ややつり目。ちょっ…

辺見庸「1★9★3★7 (イクミナ) 」②

読了して数日、イクミナの衝撃をまだ引きずっている。飲み込んだ赤黒い何かがまだ腹の中にある。全然消化できない。1937年、お前ならどうしたか。今、お前はどうするのか。絶えず問われる。未だ何も終わっていない。それどころか、また始まる可能性すらある…

辺見庸「1★9★3★7 (イクミナ) 」

きつかった。何度も本を閉じたくなった。筆者の容赦ない問い。命を削って書かれた文。生半可な気持ちでは読み通せない。読者も身を切られる。でも、読まなければならない。あまりに無知な自分を恥じる。鉛を飲んだような読後感。きつかった。ものすごい本だ…