じょなさん
彼女はじょなさんと名乗った。「ひらがなでも、カタカナでも、英語でも、好きなように呼んでください」。ひらがながしっくりきた。
問われる前は知っていたつもりのことが、問われた途端にわからなくなる、ということがある。「幸せとは何か」。その時の問いはこれだった。
ある人は「共感」と答えた。たとえば、のめり込んで読んだ本の感動を分かち合う瞬間。
ある人は「差異」と答えた。たとえば、雪降る夜に凍え切ってから浸かる温泉。
じょなさんは「その日に名前がつくように過ごせること」と答えた。たとえば、今日なら「偶然入ったカフェで面白い話を聞けた日」。そんなふうに一日、一日を創っていけたら幸せだ、と。
思いっきり短くした髪。つるんとしたおでこ。きらっきらの瞳。じょなさんはこれからインドに行くらしい。デリーとバラナシ。帰ってきたら、また会えるかな。
さあ、今日の名前は何だろう。