茶、美、くらし

お茶と食事 余珀 店主。お茶、日本の美、理想のくらしを探求中

2023-01-01から1年間の記事一覧

寡婦日記⑦

研究科を終えた。毎日いろいろなことが起こる。大変な時こそ学びや気づきは大きい。そして大変な時はずっとは続かない。自然を見ていればわかる。必ず朝は来る。 料理教室に通った一年は嵐のようだった。夫を亡くした。死にたいと思うレベルの悲しみをはじめ…

寡婦日記⑥

夫がいない世界を5ヶ月生きた。夫は生前、もしも自分が死ぬのだとしたら心残りは文さんだ、と言った。あとは家族、それ以外はどうでもいい、と言った。私もそうだ。夫が生きてさえいてくれれば後はどうでも良かった。どうでもいいことばかりが残った世界で、…

寡婦日記⑤

上級の受講中に夫を亡くした。皆勤だった料理教室を一ヶ月休んだ。葬儀や事務手続きが落ち着くまでの間、ずっと義母が一緒にいてくれた。 連絡やら申請やらで、私がスマホにかかりきりの最中、義母がご飯を三食作ってくれた。 悲しみに沈む義母に米澤先生の…

寡婦日記④

">先日、納骨をした。法要の後お墓に向かい、お墓でもお経をあげた。義父と義弟が力を合わせて墓石を動かした。義祖父のものか義祖母のものか、石と石の隙間から分解されずに残った骨が見えた。骨の近くに紙のようなものが見えた。朽ち果てる前のその紙には…

寡婦日記③

「結婚指輪をしないのか」と友人に聞かれた。「きっと守ってくれるからつけたら良いのではないか」と。言われてみると葬儀につけて以来、指輪をすることはなかった。 思いつかなかったという方が正確かもしれない。いろいろな手続きで「世帯主」に丸をつけ「…

寡婦日記②

久しぶりに音楽を聴いた。聴きたいと思って曲を選んで純粋に音を楽しんだのは何ヶ月ぶりだろう。グールドのゴルトベルグ変奏曲。夫が好きな曲だった。 音楽の力は強い。そのつもりがなくても記憶や感情が引き起こされる。夫と入院先で一緒に聴いた曲をその2…

寡婦日記①

「ダンナの骨壺」というエッセイを読んだ。著者は女優高峰秀子。黒田辰秋氏に骨入れを注文したそうだ。これを執筆した当時、高峰さんは54歳。その後ご主人より6年早く86歳で亡くなったのだから羨ましい。私は今「ダンナの骨壺」をどうするか悩んでいる。 火…

余珀日記20

夫が旅立って3週間が経った。長かったのか短かったのかもうよく分からない。眠れているのか眠れていないのかもよく分からない。 毎晩、夢を見る。これならば間に合うのではないか、と必死に夫を救う方法を探している。目覚めるともう探さなくて良いことが分…