茶、美、くらし

お茶と食事 余珀 店主。お茶、日本の美、理想のくらしを探求中

「グランメゾン東京」というドラマを見ている。正確にいうと毎週楽しみに見ている。ドラマを見るなんて何年振りだろう。


きっかけはお客さまからのお勧めだった。フレンチレストランが三つ星を目指す物語で、良い店を作るとはどういうことか、毎回違った角度で気づきがある。飲食店に従事する一スタッフとして、見るたびに心を熱くさせられているのだ。聞くとお茶の先生もアンパンマンもこのドラマを見ているという。最近は二人とも「グランメゾン東京」を絡めて例え話をすることが多く、局地的にかなり盛り上がっているのだ。


昨夜は木村拓哉演じる尾花シェフのお師匠さんが登場する回だった。三つ星を目指す尾花の店を、師匠は酷評する。「大事なものを見失っている」と。納得のいかない尾花。けれど彼は師匠の店で気づく。師匠がお客さま一人ひとりに対して料理を作っていたことを。同じビーフシチューでも、ある人には人参抜きで、ある人には生クリーム抜きで、ある人には細かく切って、出していたのだ。星を取るため、メニューの開発を重ね美味しさを追求してきた尾花。師匠は、画一的なサービスをするのではなく、お客さま一人ひとりのために料理を作ることの大切さを彼に伝えた、そんな内容だった。


思い返すと、日々、私も「誰か」のために料理をしていると気づいた。明日はあの人が来るから、好物のネギのマリネを作る。大豆アレルギーのあの人も来るかもしれないから、普通の醤油じゃなくえごま醤油を使ったデリも作る。あの人の丼の水菜は少なめに。あの人は五葷抜き。あの人はほうれん草NG。あの人が来たらサツマイモのデリを盛ってあげる。あの人には120度以下で調理したものを用意する。あの人のスープは少し薄味で。この曜日はあの人が来るから、先週と違う味のパウンドケーキを焼いておく。閉店間際によく来るあの人のためにいつでも最後までご飯を大盛り一杯分残しておく。仲良くなった常連さんたち。自然と一人ひとりの顔を思い浮かべて料理をしていたようだ。


かつて常連だと名乗れるほど、通っていたお店があった。会社員だった頃、近所にあったワインバル。スタッフの方がとにかく我々をよく覚えていてくれた。ワインを楽しむのは好きだけど、量が飲めない我々にいつもグラス一杯分を半分に分けて注いでくれた。ジム帰りに店の前を歩いて通り過ぎる時、開店準備の手を止めて私に手を振ってくれた。ジャズを知りたいと話したら、CDや本を貸してくれた。取り立てて言わないだけで、師匠の店のようなお店はきっとたくさんある。お客さまを大きな塊ではなく、一人ひとりの人として見ているお店。師匠は言った。「今は10人くらいの常連さんが美味しいと言って食べてくれる。それが嬉しい。こういう星もある」のだと。


明日も誰かのために店に立つ。あの人のために料理をする。私は私の星を目指す。


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