茶、美、くらし

お茶と食事 余珀 店主。お茶、日本の美、理想のくらしを探求中

私的遣欧日記①

4年前、雨の桜の頃、初めてお茶会に参加した。部屋に生けられた大きな桜の枝。車座になり、料理と日本酒とおしゃべりを楽しむお客たち。お菓子は三色団子。亭主はゆるゆるとお茶を点てている。雨だけど、部屋の中だけど、花見だった。



会場のお茶室にたどり着くのにずいぶん苦労した。近くまで来ているはずなのに、場所が全然分からない。雨も降っているし、もう帰りたい。でも夫は諦めなかった。何度も問い合わせをしてようやく見つけた。



このお茶会の情報は夫が見つけてきた。知り合いの人に紹介してもらったのだという。夫婦の興味が西洋美術から日本美術、そして茶道具へと移り、いよいよお茶をやってみたいと思い始めた頃。一度気軽なお茶会に参加してみたかったのだ。



お客の輪に加わり、おしゃべりに耳を傾ける。和やかにゆるやかに流れる時間。そのうちに隣の男に話しかけられた。「お茶を一緒にやろう」。アンパンマンのようなつややかなほっぺ。くりっとした目。何だか分からないけど、すごく溌剌とした感じの人。6月にパリとイタリアにゲリラ茶会をしに行くのだという。面白そう。そう伝えると、アンパンマンは「一緒に行きましょう」と初対面の我々を快活に誘った。何だか分からないけど、「行きたいです」と即答していた。



当時、会社員だった私は6月に何とか長期の休みが取れないか結構本気で画策した。新婚旅行ぐらいでしかそんな長い休みを取ったことはないのに。お茶を始めてもいないのに、よく知りもしない人なのに、行ってどうするのか分からないのに。結局仕事は休めず、アンパンマンはもう一人の仲間と渡欧した。



あのお茶会から4年半。あの後すぐ自然派茶道「星窓」に入門することを決め、素晴らしい先生のもと稽古を重ねた。あれほど迷ったお茶室は無意識でもたどり着けるようになり、大好きな場所に変わった。良い先生には良い生徒が集まる。たくさんの魅力的な人たちとの出会い。年々増える大切だと思える仲間。得難い経験の数々。感謝しかない。



今夜、パリへ発つ。向こうで先生と仲間が待っている。アンパンマンもロシアから合流する。あの時の「行きたいです」が4年越しに叶えられる。我々夫婦は今年結婚10周年。10年前、新婚旅行先に選んだのがパリだった。「パリでお茶」は特別だ。向こうで何が起こるのか分からない。たぶん必要なことが必要な時に起こるはず。この仲間と一緒にパリに行ける、それだけで十分幸せだ。



この渡欧プロジェクトは「遣欧茶節団」という。現地の動向はオフィシャルインスタグラム(https://instagram.com/kenou.chasetudan2019?igshid=5trdxgkfynnu)で随時更新される。私は私なりにこの旅の記録を綴るつもりだ。さて、準備に戻ろう。まだ機内で聞く音楽のプレイリストを作っていないのだ。



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写真はパリ出発前最後のお稽古風景。茶節団として一緒に渡欧する仲間の一人が作った衣装を試着して。


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