茶、美、くらし

お茶と食事 余珀 店主。お茶、日本の美、理想のくらしを探求中

寒稽古

空には星が輝いている。朝刊もまだ届かない。一月の冷たい風が吹くなか、武道体育館へ自転車をこいだ。


先日、体育専門学群の剣道の寒稽古に参加できることを知った。「良い経験になるから出るように」。先輩の言葉に、サークルの仲間は「はい」と答えた。


メニューは切り返しと掛かり稽古中心というハードなものらしい。「だらだらしていると先生に突かれるよ」。経験者の話に怖気づいて、家を出る前に栄養ドリンクを飲んだ。


道場に入ると、ほとんどの人が紺の道着を着ている。私の白い道着がとても目立った。どうやら体育会剣道部ではない参加者は、一人だけらしい。


仲間も来るものだと思っていたので、だまされた気分だった。皆今頃暖かい布団の中にいるのだろう。真面目に来た自分が馬鹿だったのか。


目の前には三、四十人もの先生方が並んでいる。北海道から熊本まで、各地から駆けつけた体専のOBだ。逃げ出したい気持ちをよそに、稽古は始まった。


これが全国で優勝する剣道部だ。「もっと大きく振りかぶれ」。打っても打っても止められて注意される。地稽古の途中で両足がつった。二千ミリグラムのタウリンも、まるで役に立たなかった。


もう腕も足も動かない。気力で相手に向かっていったとき、はじめて無駄な力の抜けた真っ直ぐな打ちが出た。「これだ」。一つの壁を越えた、と実感したとき、稽古の終わりを告げる太鼓の音が響いた。


開け放たれた窓から道場に朝日が差し込む。面をはずすと、誰の頭からも、白い湯気が立ちのぼっていた。


厳しい稽古を乗り切った達成感。駄目だと思ったその時がチャンスなのだと分かった。


来なかった仲間への怒りもどこへやら、すがすがしい気分で家路についた。



※昔の作文②


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