トラック02
「キッチンにはハイライトとウイスキーグラス
どこにでもあるような家族の風景
7時には帰っておいでとフライパンマザー
どこにでもあるような家族の風景」
10年以上前の誕生日に弟がCDをくれた。お勧めの曲をいろいろ入れて、私のために作ってくれたのだ。2番目に流れるのが「キッチンには」から始まる歌。タイトルもアーティスト名もわからないが、全16曲のなかでこの曲が一番好きだ。ふと思い出して、最近、またよく聞いている。
父は昔、ハイライトを吸っていた。今でも「タバコ」と言われると白と青のパッケージが目に浮かぶ。「においが嫌だから外か換気扇の下で吸ってくれ」。2人の娘に何度も何度も言われて、父はタバコを辞めた。まだ小さかった弟は、父がハイライトを吸っていたことを覚えていたのだろうか。
実家は角に建っている。近所の子どもたちはたいてい私の家を曲がって学校に通った。「お前んち、うるさい」。一度うけるとしつこく同じネタを繰り返す父。笑い上戸の「フライパンマザー」とその血を引く3姉弟。友人たちの言うとおり、とてもうるさく、でも、楽しい家だった。
家族5人そろって過ごせた時間のなんと短いことだろう。大学進学とともに家を出た。会社に勤めると年末年始に帰省ができなくなった。その後、父、母、妹、弟、私の全員がそろったのは、祖父が亡くなったときだった。
今年の正月、久しぶりに盛岡で過ごした。弟だけが帰れなかった。次のお盆なら「家族の風景」を見ることができるかもしれない。
そろそろ弟の誕生日だ。10年経ってもなお心を動かすようなプレゼントを、弟に、そして妹に、私は贈ったことがあっただろうか。冷たい姉なので「トラック02」を越える贈り物は思い付けない。「夏は家に帰るのか」とでもLINEしてみようと思う。
2018年2月23日
#家族の風景
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