茶、美、くらし

お茶と食事 余珀 店主。お茶、日本の美、理想のくらしを探求中

骨の音

ぱりん。

白茶けた骨がたてる、せいけつな音。

キィンとかすかな響きが混じる、

軽くてかたい透明な音。


ぱりん。

風の谷のナウシカ」の

腐海の枯木が割れるとき

ちょうどこんな音がした。


「ホラホラ、これが僕の骨だ」

見せてきたのは誰だっけ。


警官みたいな帽子をかぶり

マスクをした若者が説明する。

きわめて抑揚をおさえた声で。


「これが顎の骨」

「これが顔の正面」

「これが喉仏」


なぁ、お兄さん。

その説明は今日、何回目だ。

焼く前と焼いた後と

棺の重さは変わるのかい。

電動式のレバーを握るその手に

重さの違いは残るのかい。

その違いを忘れるために

お酒を飲んだりするのかい。


その骨は私のおじさんだ。

母が「あんちゃん」と呼んでいた

たったひとりの兄さんだ。

前に会ったのいつだっけ。

どうしよう、20年も会ってなかったよ。


焼き上がりまで1時間。

ビール3杯、飲み干した。

はじめから終わりまで

泣きもしない私は何だ。


できごとと感情の間に

いつも起こる時差。

今さら渦巻く

言葉。言葉。言葉。

うるさい。

黙れ、頭。


ぱりん。

この音はなぜこんなにもせいけつなのか。


骨を収めたお墓から

湖を見下ろせた。

晴れた。

梅が香る。

湖面が白いビニールみたいに

遠く光っていた。


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